銀翅
北の部屋の二階、窓辺からの眺めでは
街路灯が放射状の光と影を立て
幽霊が揺れている。
月と同じ色をして
はるかに明るく道に煙る。
狭く歪んだ路地に
調子を合わせた松の木が
重なる屋根の間を縫い
生えている。
幽霊と木が 肩を並べ
ともしびの弾ける音を弾く。
やがて 潮騒が静かに重なり
水辺のない住宅地に 鳴り止まず。
遠くの闇は
夜空が靄となり
地上を誤魔化す。
窓柵に銀色の落ち葉が
ひらり、とまった。
透ける葉の先に
糸のような二本の針金が
そよいでいる。
それは 銀の虫で
風が吹くと
ちりちり
細長い触覚が霞む。
翅は錫箔
八重に折りたたまれている。
水晶の目玉に
夜が映りこむ。
金属の性は
氷室の冷気を漂わせ
広げた翅の下で
ふっくらした腹が
ひよひよ 脈打つ。
細かな産毛が光っている。
十重二十重と 扇が閃く。
擦り合う細かな音で
翅の隙間が埋まる。
潮騒だ。
きまぐれに ふつりとやむ。
そしてまた 波が打ち寄せる。
飛沫きが散る。
真珠色に
降り積もる雪となり
波にさらわれ
銀の潮騒は
月の下へ。