姿
清の父親が亡くなったとき、葬儀にてひととおり賛美歌を歌った牧師が、説教を述べた。その牧師も数年前に、身内を亡くしたという。牧師は
──悲しいことではありましたが、神様は大事な使命のためにお呼びになったのです──
と言った。
──悲しみはいずれ癒えると思いながら、私たちは生きてゆかねばなりません──
とも言った。心の底から沸き起こったかのような声色だった。まるで自分自身に言い聞かせているようでもあった。
清はその言い回しを好ましく思えなかった。遺族に寄り添っているようでそうではない、押しつけがましい信仰の話だと感じた。他人の気持ちが一から十までわかると言いたげなところも、思い上がりだ。
早々に聞き流すことにしたが、一つだけ興味深い話があった。
牧師は型どおりの慰めを口にしてから言った。
──葬儀の数日後のこと、小さな天道虫が私の腕に留まり、すぐ翅を広げて飛んでゆきました。私はなぜかそれを、まるで親しげに挨拶をされたかのように感じました。不思議なことで、似たような話を、私と同じように大切な人を見送った方からよく聞きます──
主のもとから故人が使いとしてやってくる、そのような話だった。
清の母親は、顔を伏せて牧師の話をじっと聞いていた。そして家に帰ると、
──神様の元で働くよりも、こちらでやり残したことがあの人にはまだあったのに──
と震える声で言った。
清は同意した。母親は
──神様は天に招集をかけるにしても、たったそれだけのことなのに、どうして死に際に苦しめるのだろう──
と憤った。清はその言葉に、うん、と相槌を打った。
頃合いが悪かった。どのような言葉も傷になった。起きたことを受け入れる前に聞く慰めの言葉は、前向きに生きることを急かしているように聞こえた。たとえ慰めようと発された言葉に悪意がなくとも、今の状態を非難しているかのように感じられた。
母親の前では沈鬱な面持ちでいた清だが、自身が住むアパートに戻ると普段と変わらぬ食欲で夕餉を済ませた。眠る前には娯楽書を読み、小さく笑い声を漏らしさえした。早々に父親が亡くなったことを忘れている瞬間があることに清は気付き、自身を薄情だと思ったが、やめようと思ってやめられるものでもなく、また、義務があることでもないとして諦めた。
数日後、母親の様子を見に、清は実家を訪ねた。居間でくつろいでいると、掃き出し窓の方からバチンと大きな音がした。見れば、網戸に黄金虫がとまっている。清は慌てた。黄金虫は屋外ではなく、網戸の内側にとまっていた。緑色の背中が艶々と光っている。そこへ母親が通り掛かった。
虫嫌いの母親は息を詰め、走って納戸へ行き、舞い戻ると、ハタキを黄金虫に向けて猛々しく振り上げた。
虫は叩き落とされた。床で脚を蠢かせている。母親は網戸を開け、手早く外に掃き出し、心底嫌そうにハタキを払った。
清は牧師の話を思い出していた。黄金虫の千切れた脚が、床に転がっていた。