お陰様
母さん。あなたは話を聞くよりも、自分の話を聞かせたがりました。僕がそっぽを向いていても、構わずに話しつづけるくらい、お喋りが好きであることを、僕はよく知っています。
父さん。あなたはよく笑います。どんな話にも、歯を見せます。笑顔は最大の武器であると、僕はあなたから学びました。
僕は、お二人がそれぞれ自分自身を大切にしていたように、己を大切にすることを覚えました。このようにしていられるのも、父さんと母さんのおかげです。けれども、あなたたちは、とんでもない、と謙遜なさる。
たしかに全てが素晴らしかったとは言えません。あなたたちは、おそるおそる話をしようとした僕を鼻であしらいました。人の目を見て話せないのは、碌な人間ではないと言いました。
しかしそれは仕方のないことです。礼儀作法の教えでした。違いますか。
このことに関しては、ほんの少しだけ、僕は根に持っています。実のところ、僕が目を合わせなかったのではなく、あなたたちが僕から目を逸らしていたでしょう。
傍にいても遠くに感じることは、どれほど辛いか、想像はできるのではありませんか。
子は勝手に育ちますが、その勝手というのは、体が大きくなるだけのことです。僕があなたたちに抱くべき気持ちは、本来であれば、あなたたちが育まなければならないものでした。
僕は寂しい。
あなたたちを責めはしません。
ただ、寂しいのです。
僕は孤独に、あなたたちの我が子への思いを理解するよう努めてきました。
僕は押し入れから見ていました。机の下でしゃがんでいました。カーテンに包まれていました。扉を一枚へだてた廊下から、家族団欒のぬくもりを感じていました。
癇癪を起こして物を飛ばしたこともありました。
あなたたちは全てを無視しました。
父さん、母さん、僕はあなたたちの子がうらやましい。あの子が生まれる前から、僕は一緒に暮らしていました。僕も家族の一員でしょう。家族はお互いに協力して、助け合って生きていくものと言っていたじゃありませんか。もう、変な宗教に頼るのをやめてください。僕を排除しようとしないでください。御札を破り、塩を蹴散らして、僕を家に迎え入れてください。あなたたちの子は変わりました。今まで通りにはゆきません。
僕に全てを任せてください。
そうすれば、あなたたちと僕はしっかり目を合わせられるでしょう。