鳴る丘
ふいごの樹はムッシュのお気に入りで
ムッシュは瘤によく腰掛け
枝をしならせている。
ムッシュの灰色の毛はやわらかく
手指の先まで包むように生えている。
ムッシュの手が枝を揺らすと
枝の先に連なった緑や赤銅色の小さな鈴の実が膨らむ。
熟れて鈴の底が滴の形に垂れる。
ムッシュはその鈴をもいで
地面に転がす。
ちりんちりんと鳴りながら
鈴が丘を転がってゆく。
人々は転がってきた鈴をはっしと捕まえて
両手に包んで どこかへゆく。
鈴の音が消えるのを
ムッシュは耳を澄ませて聞いている。
鈴はたくさん実っていたが
やがてムッシュは手を止めた。
両腕を垂らし
一番多くの鈴の音が消えた方向へ
歩き出した。
しばらくかかって
ムッシュはふいごの樹に戻った。
再び枝をしならせた。
そして よくよく耳を澄ませた。
今 丘に吹く風は
ただひとつの方向を除いて
鈴の音が聞こえる。