つむじ曲がり
あっ、
側溝の白くて汚い水の中に、
ぷかり、ぷかり、
見覚えのある頭のてっぺんが浮いている。
あの、ねじくれた渦のつむじ。
誰だったろう。
そうだ、例の子だ。
腕や足を、どこにやっちゃったのか、
水の通り道が、例の子で溢れている。
とろとろと 白くて汚い水の上を 黒い髪の毛が流れていく。
ワカメがなびいているよう。
ねっとりと 光っている。
つむじを覗いていたら、例の子は ぐるりと上を向いた。
頬をぶわぶわ震わせて、
低い鼻が空を向き、
太くて白い水の帯が頬に張り付いている。
例の子は 口にたまった汚い水を吐き出して、
黒豆のような小さな眼で睨みつけ、
いつも通りの おすましな声で
──なぁに? あたし 忙しいんだけど。
と言った。
側溝にはまっていても、気高いの。
もし 肩があったなら、
胸を突き出し 腰を反らせ、
威張ったのだろう。
学校では 女王様として 廊下の中央を 歩いていたのに、
こぢんまりとしたものね。
これにほほえまずして、
誰に優しくできるというの。
──なくしもの? どうしたの。
優しく訊いてみる。
でも例の子は粒々の眼を 穴の中で もっと増やし
──どうせ、あなたなんかに言ったって見つからないんだから、いちいち聞かないでよ。
つっけんどんに返してきた。
──それは分かんないよ。もしかしたら見かけたかも。教えて。無駄だったら 後で怒ればいいじゃない。
ぴぅ、と例の子は口から汚い水を飛ばした。
──気味の悪い役立たずは あっちへ行って。
頭だけでは、あっちと言っても方向を指せない。
ぎょろぎょろした眼の動きだけで 指そうとしている。
──そう。じゃあ知らない。
足元で、がぼがぼと溺れているような音がうるさい。
例の子は、とってもみじめで かわいい子。
探したって、体はどこにもないよ。