人形と長い腕
沢山のおもちゃの中で、人形は取り合いになるからと、
使ってはいけないことになっている。
遊びはもっぱら
ボールや、輪投げや、積み木である。
おもちゃが並ぶ棚の背は高い。
手が届かない。
だから 腕が長い子が おもちゃを上げ下げする。
腕が長いその子は、たとえ好きな子に人形をせがまれても、
ダメだ
と首を振って別のおもちゃを渡す、真面目な子だった。
争うのは悪いこと。
分かっているから、皆で決まり事を守った。
平和は喜び。
疑うことはないと、信じてきた。
けれども なぜ禁止されなければならないのか、本当のところを誰も考えたことがない。
不可解なようで、すぐに、自分たちは信用されていないのだと思い至った。
規則は遙かに昔のもの。
仲良くいられるのなら、人形で遊んでもいいはずだ。
関節から、ひび割れた石のような音がした。
腕はぐんと長く伸び、
幾度も折れて、棚まで届いた。
人形は凝ったつくりで、裏返すと薔薇になった。
地面に丸めて落とされ、
今まで遊ばれなかった歳月を取り返すかのように、長い腕の草原を跳ね回った。